大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉家庭裁判所 昭和62年(少ハ)1号 決定

少年 S・S(昭42.7.20生)

主文

少年を21歳まで中等少年院に戻して収容する。

理由

(申請の経過)

少年は、昭和59年9月25日当家庭裁判所において医療少年院送致処分となり、関東医療少年院に収容されて医療措置と矯正教育を受け、昭和60年4月30

日には精神分裂病の寛解状態となつているところから中等少年院である茨城農芸学院に移送され入院し、昭和61年8月7日仮退院して肩書住居地に帰住し、千葉保護観察所の保護観察を受けているものであるが、犯罪者予防更生法34条2項の一般遵守事項及び同法31条3項によつて関東地方更生保護委員会が定めた特別遵守事項を遵守しない事実が認められること、並びに保護観察の指導監督、補導援護では改善更生を図ることが困難と判断され、昭和62年1月13日付で同委員会から当家庭裁判所に対して戻し収容の申請がなされた。

(申請の理由の要旨)

1  遵守事項違反の事実

(1)  仮退院後、昭和61年8月下旬ころから現在まで全く就労せず、徒遊の生活を送つていた(一般遵守事項第1号「正業に従事すること」及び特別遵守事項第5号「怠けずに働き、早く手識を身につける」に違反)。

(2)  仮退院後1か月くらいのち、暴力組織○○会○○一家○○組組員Aの家で、A、Bほか後輩5人くらいと共にシンナーを吸引したのをはじめ、以後、昭和61年11月19日ころまでの間、頻繁に、自宅や後輩の家などでシンナーを吸引した(一般遵守事項第2号「善行を保持すること」及び第3号「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと」並びに特別遵守事項第3号「人間を廃人にする覚せい剤やシンナー類には二度と手を出さないこと」及び第4号「暴力団や覚せい剤と関係のある者とは交際を断つこと」に違反)。

(3)  昭和61年9月中旬ころから同年12月初めころまでの間、多数回にわたり、公安委員会の運転免許を受けないで、自分で購入した自動二輪車、前記○○組幹部Cの自動車、同人からもらつたと称する自動車、実父の自動車、大型自動二輪車、借用自動車などを運転した(一般遵守事項第2号及び第3号、特別遵守事項第4号に違反)。

(4)  昭和61年10月26日、○○会△△一家△△組幹部Dの紹介により、同△△組に加入し、同△△組の電話番をするなどした(一般遵守事項第3号及び特別遵守事項第4号に違反)。

2  戻し収容を必要とする理由

仮退院後の少年の行状は前記のとおりであり、極めて悪化してきている。

千葉保護観察所では、シンナー等の薬物依存嗜癖を絶つこと、暴力組織関係者らとの交際をやめさせること、定職に就かせて規律正しい、健全な生活を身につけさせることなどを目標として指導してきたし、そのために担当保護司が綿密に指導してきた。

しかし、少年はこれに従うことなく、仮退院後間もなく仕事を離れ、不良交遊、シンナー吸引、自動車の無免許運転等を繰り返し、昭和61年9月20日には千葉保護観察所に呼び出されて担当保護観察官から生活指導を受けたが、その後数回の呼び出しに応ぜず、また、非行の現場から担当保護司、父母に連れ戻されて指導されること再三ならずあり、次第に担当保護司の指導に対しても公然と背くようになり、遂には担当保護司の目前でシンナーを吸引するまでに至り、保護観察による指導に応じようとする姿勢は全く認められない状態にある。

父母は、仮退院後少年を受け入れ、少年の更生を期待して、少年に自動車を再三貸与する者に対して警察に通報する旨の警告をしたり、担当保護司と共に非行現場から少年を連れ戻すなど指導してきたが、少年は、その指導に従わず、ますます反抗的な態度をとる一方、遊興費欲しさから父母に金員を要求し、これに応じないと家の窓ガラスを割つて父母を脅したり、近隣の家から借金するなどし、仮退院後、総額で150万円くらいの金を浪費しており、さらに、最近では自宅をシンナーを吸う少年らの溜り場にしている現状であり、父母は少年の暴力的な言動に対して為すすべもなく、少年の監護に全く自信を喪失している。

3  以上のとおり、少年の遵守事項違反の程度、態様及び保護者の保護能力等から検討すると、保護観察により少年の改善更生を図ることは困難であり、このまま放置すれば、より重大な非行を重ねるおそれが強いと考えられるので、この際、少年を少年院に戻して収容し、再び矯正教育を実施することにより、シンナー吸引嗜癖を断ち、堅実な生活習慣を身につけさせることが適切な措置であると思料する。

(当裁判所の判断)

少年の審判廷における陳述及び保護観察官に対する供述調書(写)、S・K、S・O、Eの保護観察官に対する各供述調書(写)、E作成の意見書(写)などを総合すると、おおむね、申請の理由記載のとおりの事実が認められるところ、少年の遵守事項違反の程度は重大であり(例えば、仮退院後8月下旬ころまで家や墓の婦除、畑の草刈など少しは働いたが、以後は稼働意欲なく全く働かず、親から無理に出させた多額の小遣いをゲーム機械のポーカーゲーム代などに浪費する生活を送つたり、心臓神経症、自律神経失調症で入院した病院のベツドの上でシンナーを吸引したり、担当保護司の目前でシンナーを吸引するなど態様敏質なシンナー吸引があり、また、普通乗用自動車を無免許運転して倉庫の外壁に衝突させたり、担当保護司宅への往復路上において普通乗用自動車を無免許運転するなど危険、悪質な無免許運転があり、暴力組織関係者との交際は、前記Cから外国産の自動車をもらつたり、組員となつて制服をきたりするなど親密なものであつた)。、そのうえ、保護関係者の指導監督には全く服さない現状であり、このまま社会内処遇を続けると、少年は更に重大な非行に及ぶおそれが大であるとともに更生の機会を失して少年自身の問題を悪化させるおそれもあると思料される。

少年は、医療少年院に2度収容されて矯正教育を受けており、資質上の問題が大きく、処遇困難児であるから矯正教育に多く期待はできないが、仮退院後の行状については反省し、少年院での矯正教育を受け入れる姿勢も示すなどまだ可塑性もあり、従来とは視点を変えて新たな処遇を試みる余地もあることは否定できないし、前記のような将来の不安も考慮すると少年を少年院に戻して収容することはやむを得ないところと判断される。

狭義の精神障害は認められないこと、少年の処遇歴、処遇の困難さ、環境調整の必要性、年齢など諸搬の要素を考慮すると、少年を中等少年院に戻して収容する期限は21歳までとすることが相当である。

よつて、少年を21歳まで中等少年院に戻して収容するのを相当と認め、犯罪者予防更生法43条1項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 片瀬敏寿)

〔参考〕 戻し収容申請書

関更審発第30号

戻し収容申請書

昭和62年1月13日

千葉家庭裁判所殿

関東地方更生保護委員会

下記の者は、少年院を仮退院後千葉保護観察所において保護観察中の者であるが、少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法第43条第1項の規定により申請する。

氏名

年齢

S・S

昭和42年7月20日生

本籍

千葉市○○町××

住居

千葉市○○町××-××

(現在地 千葉少年鑑別所 収容中)

保護者

氏名

年齢

S・O

昭和6年4月15日生

住居

千葉市○○町××-××

本人の職業

無職

保護者の職業

農業

決定裁判所

千葉家庭裁判所

決定の日

昭和59年9月25日

仮退院許可委員会

関東地方更生保護委員会

許可決定の日

昭和61年7月21日

仮退院施設

茨城農芸学院

仮退院の日

昭和61年8月7日

保護観察の経過及び成績の推移

別紙「保護観察の経過及び成績の推移」(編略)のとおり。

申請の理由

別紙「申請の理由」のとおり。

必要とする収容期間

参考事項

添付書類

1 本人に対する質問調書謄本 1通

2 関係人に対する質問調書謄本 6通

3 少年院仮退院許可決定書謄本 1通

申請の理由

少年は、当員会の決定により、その仮退院期間を昭和62年7月19日までとして、昭和61年8月7日茨城農芸学院からの仮退院を許され、表記住居の父母のもとに帰住し、以来千葉保護観察所の保護観察下にあるものである。

少年は、仮退院に際して、犯罪者予防更生法第34条第2項に定める事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項の規定に基づき当委員会が定めた事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約したものであるが、昭和62年1月9日付けで、千葉保護観察所長から戻し収容の申出がなされたので、関係書類を精査して検討するに、下記1記載のとおり、遵守すべき事項を遵守していない事実が認められ、かつ、下記2記載のとおり、既に、保護観察による指導監督・補導援護の方法をもってしては、その改善更生を図ることは著しく困難な状況にたち至っているものと認められるので、本件申請を行うものである。

1 遵守事項違反の事実

少年は、

(1) 仮退院後、昭和61年8月下旬ころまでの間、自宅や墓の掃除、畑の草刈等をしたり、さらに、千葉市所在の○○工業株式会社で土木作業員として1週間くらい働いたほかは、現在に至るまでまったく就労せず、待遊の生活をしていた

(2) 仮退院後1か月くらい後、千葉市に居住していた暴力組織○○会○○一家○○組組員Aの家で、A、Bほか後輩5人くらいと共に、シンナーを吸引したのをはじめ、以後、昭和61年11月19日ころまでの間、頻繁に、自宅や後輩の家などで、みだりにシンナーを吸引した

(3) 公安委員会の運転免許を受けていないのに、

ア 昭和61年9月中旬ころ、千葉県四街道市付近の道路上において、さきに自分で購入した自動二輪車を、

イ 昭和61年9月中旬ころから同年10月末ころまでの間、15ないし16回くらいにわたり、自宅付近の道路上において、暴力組織○○会○○一家○○組幹部Cと合意の上、同人の自動車を、

ウ 昭和61年9月下旬ころ、2週間くらいの間、千葉市付近の道路上において、前記Cからもらったと称する自動車を、

エ 昭和61年10月下旬ころ及び同年11月中旬ころ、自宅付近の道路上において、父の自動車を、

オ 昭和61年11月下旬ころ、750cccの自動二輪車を、

カ 昭和61年11月29日ころ、千葉市居住の担当保護司方への往復路上において、友人から借りた自動車を、さらに、以後2日くらいの間、千葉県山武郡○○町付近までの道路上において、前記の借用自動車を、

キ 昭和61年12月初めころから1週間くらいの間、千葉市付近の道路上において、後輩から借りた400ccの自動二輪車を、

それぞれ運転した

(4) 上記各交際のほか、昭和61年10月26日、かねて知り合いの暴力組織○○会△△一家△△組幹部Dの紹介により、千葉市所在の同△△組に加入し、同△△組の電話番をするなどし、もって、暴力団関係者らと交際をした

ものである。

上記(1)の事実は、一般遵守事項第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること」後段及び特別遵守事項第5号「怠けずに働き、早く手職を身につけること」に、上記(2)の事実は、一般遵守事項第2号「善行を保持すること」及び第3号「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと」並びに特別遵守事項第3号「人間を廃人にする覚せい剤やシンナー類には、二度と手を出さないこと」及び第4号「暴力団や覚せい剤と関係のある者とは交際を断つこと」に、上記(3)の事実は、一般遵守事項第2号及び第3号並びに特別遵守事項第4号に、上記(4)の事実は、一般遵守事項第3号及び特別遵守事項第4号に、それぞれ違反していることが明らかである。

2 戻し収容を必要とする理由

(1) 少年は、仮退院後表記住居の父母のもとに帰住し、当初は、家庭の仕事を手伝ったり、土木作業員として働くなどしたが、まもなく職を離れ、以後、仮退院期間中の大半を就労することなく、徒遊の生活を送ってきている。また、仮退院当初から暴力組織関係者らと接触を始めていたが、まもなくその交際が非行を伴うようになり、前記1の(2)ないし(4)のとおり、次第にその度を増して、同人らと共に、あるいは単独で、シンナーの吸引や自動車の無免許運転を繰り返すなどし、再三にわたって、道路交通法違反により、警察官に検挙された事実も認められ、少年の行動は極めて悪化してきている。

(2) 千葉保護観察所においては、シンナー等の薬物依存嗜癖を絶つこと、暴方組織関係者らとの交際をやめさせること、及び、定職に就かせて規律正しい、健全な生活を身につけさせること等を目標として、指導を進めてきた。そのために、担当保護司が、少年に会うたびごとに、仕事に就いて働くように指導を重ねたほか、遵守事項を守るよう綿密に指導してきたが、少年はこれに従うことなく、仮退院後まもなく仕事を離れ、不良交遊、シンナー吸引、自動車の無免許運転等を繰り返すようになったため、担当の保護観察官は、昭和61年9月20日、千葉保護観察所に出頭を求めて生活指導をした。しかし、その後数回にわたる保護観察官の呼び出しには応ぜず、また、担当保護司が少年の父母らと共に、非行の現場から少年を連れ戻して指導することも再三ならずあり、さらに、少年が組からの離脱を希望したことから、他の保護司及び母と共に暴力組織の幹部と折衝し、同組織から少年が離脱できるよう話をつけるなどしたが、少年は、次第に同保護司の指導に対しても、公然と背くようになり、遂には、同保護司の目前でシンナーを吸引するまでに至っており、既に少年には、保護観察による指導に応じようとする姿勢が全く認められない状態にある。

(3) 父母は、仮退院後少年を受け入れ、少年の更生に期待して、就労についての指導をするとともに、悪友との交際を断つことにも意を用い、無免許運転をたびたびする少年に自動車を再三貸与していた者に対し、今後Sに無免許運転させたら110番する旨の警告をするなどし、さらに、前記のとおり担当保護司とともに非行現場から少年を連れ戻すなどした。しかし、少年は、父母の指導に素直に従うどころか、生活態度を改めるよう注意する父母に対して、ますます反抗的な態度をとる一方で遊興費欲しさから、父母に金を要求し、これに応じないと、家の中の窓ガラスを割って父母を脅したり、近隣の家に行って借金をするなどして、仮退院後、総額で150万円くらいの金を遊興費等に浪費しており、さらに、最近においては、少年の自宅がシンナー吸引をする少年たちの溜り場となっている状況であり、父母は、少年の暴力的な言動に対し、為すすべもなく、保護者として少年の監護に、全く自信を喪失している状態にあるものである。

以上のとおり、少年の遵守事項違反の程度、態様及び保護者の保護能力等から検討すると、保護観察を継続することによって、少年の改善更生を図ることは既に限界に達しており、このまま放置すれば、より重大な非行を重ねるおそれが強いと考えられるので、この際、少年を少年院に戻して収容し、再び矯正教育を実施することにより、シンナー吸引嗜癖を断たせるとともに、堅実な生活習慣を身につけさせることが適切な措置であると思料する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例